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【Time Trip】第1話【オリジ小説】

Tmie Trip ―第1話―


「はぁ、はぁ、はぁ……」

一人の少女が何かに追われているのか、息を切らして走っている。様子を見れば、少女はすでに長時間逃げ回っていることが窺える。その証拠に、履いている靴は薄汚れ、傷も所々についている。途中で転んだのかどうか定かではないが、体にもかすり傷などが多々見られる。
しかし、彼女はいったい何から逃げているのだろうか?
広い廊下を、少女は走り続ける。その後ろには何も追ってきていない。だが、代わりに黒い闇が迫ってきている。その黒い闇は、周りのすべてをまるで掃除機で吸い込むかのように飲み込んでいった。彼女の後方の情景は、粒子になってその闇の中に吸い込まれていく。
何度目の転倒なのか、少女は自分の足に引っかかり大げさに転んだ。しかし、立ち止まっていると自分も飲み込まれてしまう。そう思い、すぐに立ち上がってまた走り出した。
だが……

「そ、そんな……!」

そうつぶやく少女の目の前からも、黒い闇が迫ってきていた。彼女に逃げ場はなくなった。闇が近付くにつれ、少女の体がだんだん薄れていった。掌を見ると、消えていく様子が見て取れる。
もうおしまいだと、少女は心の中で思った。自分も消えることに覚悟を決めた。
その瞬間だった。少女は何かを思い出した。ズボンのポケットに手を突っ込み、何かを取り出した。メモリースティックサイズの小さな何か。そこについているボタンを押しながら、空中に少女が入り込めるほどの四角形を素早く描き、液晶の操作パネルのようなものが現れた。その画面に映っているものの中に、『転送』という文字があり、少女は迷わずそれをタッチした。画面は虹色に輝いたものになり、すぐに少女はその中へ飛び込んだ。半透明になりながら、少女は虹色に輝く世界に吸い込まれていく。その時と同じように、黒い闇も周りを飲み込み、少女が立っていた場所も飲み込んでいき、あとは何もない真っ暗な闇と化した。



――時は西暦5000年の未来世界。
高層ビルがいくつも立ち並び、大勢の人々が街中を行き来している。買い物に行くもの、仕事に行くもの、数名でどこかへ遊びに行くものなど、この世界は人でにぎわっていた。空を見上げれば、車やバスなどが空中で飛び交っている。この世界では、乗り物全般は空中で移動することができるのだ。もちろん、空を飛ばないものだってある。地面にも車道があり、そこにも車やバスが走っているのだ。
ちなみに、車やバスは自分で運転することもできるが、自動で運転することもでき、システムに異常が出ない限り、事故は一切起こすことはなくなるのだ。
といっても、普段でも全く交通事故がない。普通、人が運転すれば何かしら事故が起きてもいいぐらいなのだが、この世界にはそんなことにならないシステムなるものがあった。
いつの時代からなのか、この世界は突然時間に左右されるような世界になった。時間を守りさえすれば、事故も犯罪もなくなるというのが理由だとか。しかし、すぐに時間をきっちり守れるものではない。そう考えた政府は、人々にあるチップを埋め込むことにした。そのチップは肉眼では確認できないほどの小さな小さなチップ。そのチップを点滴などで埋め込むことにより、体全体にいきわたるのだとか。しかも、そのチップは遺伝させることもでき、子供が生まれたとしてもそのチップを受け継ぐことができるので、わざわざ注入させなくてもいいのである。そして、体全体にいきわたったチップは、個人個人で政府により設定させられ、そのプログラム通りに人々は行動できるようになった。
だが、これをいまだよくないと思っている人も少なくはない。人々はプログラム通りに行動しているはずなのだが、この暮らしが嫌になるときもあるようで、システムを無視してプログラム以外のことをしようとする。チップの誤作動ではなく、人の意思。その人の意思によって、プログラム以外のことをするのだ。そうすることによって、何か事故を招くことがあるので、時間以外のことをしようとすると、ペナルティポイントというものを与える制度をとることにした。このポイントがマックスを超えると、政府の者がやってきて、連行されてしまうのだ。連行されてしまう人々がどうなるのかは、全く公開されていないため不明である。
そんな制度があるため、人々は自分の意思で動くことはできても、それを行ってしまうとペナルティがつくと思い、自分の体に埋め込まれたチップで行動することになった。まるで、機械が命令通りに動いているかのように。
それを何年も続けて今がある。何も知らない者にとっては普通の光景にしか見えない。だが、そこには時間による束縛が隠されていたのだ。
しかし、時間に束縛されながらも、ほとんど自分の意思で行動し生活している少年がいた。

「どいてどいてどいてぇええええ!!!」

最速を誇るエアーボードに乗って、人混みを抜けていく彼――長谷川誠司(はせがわせいじ)。17歳の高校2年生。金髪のサバサバした髪の下に、黒髪がのぞかせいて、金髪になった髪の一部に、黒髪が混ざっている。服装は、シャツの上に紺色の袖なしブレザーで水色のネクタイを着けている。そして、黒いズボンと真っ白な靴だ。現在、エアボードで進んでいるせいか、風圧により前髪が反り上がってオールバック状態になっていた。
そんな誠司は、体にチップは埋め込まれているものの、システムを完全に無視して、自分の意思だけで生活している。そのため、学校に遅刻することほぼ毎日。ほかにも、設定された時間通りに動かないことばかりを続けている。普通ならば、ペナルティポイントを与えられるはずなのだが、彼に至ってはそのポイントはすでになくなっている。そのポイントが何故なくなったのかはまた後程話そう。
誠司は今、必死に学校に向かっている途中である。自宅から歩いて5分ほど先のバス停に、その時間通りに行くはずだったのだが、寝坊してこのエアーボードで移動中。そのバス停は、1時間に1~2本しか通っておらず、1本でも乗り遅れると、次に来る時間は30分~1時間後になってしまうのだ。そんなバスに乗り遅れた彼は、エアボードの最大スピードを出して学校に向かっているのである。途中で道に曲がり、近道となる場所を高速で通り抜ける。その道を出て大きな道に出ると、あとはまっすぐに進むと自分の学校がある。エアボードのスピードをさらに上げ、閉まりそうな校門をヒュンッと風を切るように通り抜け、すぐにブレーキをかけて止まる。そして、適当に髪の毛を整えながら、校舎の中へ入っていき、ワープボックスに入って自分の教室の目の前までたどり着き、扉をゆっくりとあけ、後ろからそろそろと入っていく。クラスの中は、ちょうど出席をとっている最中であった。

「長谷川~!」

その先生の声に、彼はすぐに席について、今さっきまでこの教室にいたかのように、「はーい!」と返事をした。

「ん?何だ長谷川、今日は遅刻じゃないのか。珍しい。珍しすぎてあられでも降るんじゃないか?特大級の。」

そんな冗談で、クラスがどっと笑いだす。しかし、そんな時間をとっている場合ではないというように、先生は出席を続けた。その間に、誠司は授業の準備をした。といっても、教科書があるわけではない。この机はひとつのパソコンになっており、右上の隅にある赤く平面なボタンを押すと、机の上半分にあるライトが光り、目の前にホログラム画面が浮かび上がる。そして、机にはキーボードらしきライトがつく。これで操作し、授業を行っていくのだ。ちなみに、このホログラム画面は触って操作することも可能だ。
誠司は、ホログラム画面に出ている、「授業」と書かれたフォルダをタッチして中身を開いた。その中には国語や数学といったフォルダがいくつか並べてあった。その中の、「理科」と書かれているフォルダをタッチして中身を開くと、授業で習ったデータが入っていたのだが、そのほかに授業外のものも混ざっていた。
ジャンルは確かに理科系のものなのだが、それはとても高度なもので、普通の学生では理解できないものばかり。このデータを見たら頭がパンクして、ヒートアップすること間違いなしのデータだった。そんなデータを開いた誠司は、授業がまだ始まらないというのに、せっせとそのデータに新たな情報を打ち込んでいった。それを隣で見ているクラスメイトは、その作業を5秒ほど見たのだが、ヒートアップしそうだったらしく見るのを諦めた。
しばらくすると、出席およびホームルームは終了していた。皆、授業の準備をするために、一斉に机にある赤いボタンを押して、起動させた。1時限目は理科のため、理科のフォルダを開き、前回やったところまでのデータを開いて待機していた。
一方誠司は、いまだに何か難しい情報を書き込んでいた。今度は何かを作るためのプログラム……というよりも、すでに出来上がっているものに、自分が使いやすいようにと改造プログラムを組み込んでいるようだ。しかし、あーでもないこーでもないと書いては消しての繰り返しを続けている。何が納得いかないのだろうか。
すると、クラスメイトの一人が話しかけてきた。その瞬間、誠司は腕時計を見て「いつもの時間だな」とだけ、ボソッとつぶやいた。その言葉に疑問を感じたクラスメイトだったが、すぐに何でもないと誠司はクラスメイトに返事をした。クラスメイトが話しかけてきたのは、やはり誠司が今おこなっている作業についての感想だった。このクラスメイトは、誠司が書き込んでいるプログラムを見て、何となくだが理解できると謳っている人だった。所狭しと書き込まれている数字や英語の羅列をみて、頭は痛くなりそうだといいつつも、何となく理解しているように見せている。でも、何となくのため、「~だろう?」と答えると、「全然違う」といつも誠司に返されてしまう。正解しているのは、ほんの1%も満たないぐらいだ。むしろ、正解した試しなどないぐらいだ。
そして、誠司は腕時計を再び見ると、クラスメイトは話を丁度いい時間に切らせたのか、自分の席に戻っていった。その様子を見て「これも時間通りだ」と、自分だけが聞こえる程度の声で誠司はつぶやいた。
電子音で「キーンコーンカーンコーン」と10秒ほどチャイムが鳴る。授業が始まる合図だ。クラス全員はすでに席について待っている。
担当教科の先生が入ってくると、クラスの代表が「起立!礼!着席!」という合図を出す。その合図が終わると、先生は手のひらサイズのスティック型のリモコンを取り出して、壁に向かってボタンを押した。すると、横に長い大きな画面があらわれ、前回までの授業の内容が出ていた。そして、それに加えて先生が説明をしながら、また新たに情報を足していく。先生の画面のように、生徒たちも説明を聞きながら同じように情報を書き込んでいった。もちろん誠司は授業そっちのけ。今度はまた違うフォルダを開いて、何やら文章を書いていた。その文章は日本語では人に簡単に読まれてしまうため、誠司はあえて英語のみでその文章を書き続けている。自動翻訳機能を持ったもので見られたらおしまいだが、一目で見たときにどんな内容かすぐに判断できないように工夫したのだ。その様子を先生はたまに見ていたが、かかわると時間を無駄にしてしまうため、「いつものことか」というように授業を進めていった。
しばらく授業をしていると、誠司は保存用のメモリースティックを取り出し、机にある差込口に取り付ける。画面に、アイコンが出たのでそれをタッチして開き、先ほど書いていた文章をそこにコピーしていれた。そして、コピーされたのを確認したあと、メモリースティックを抜き、少しタイミングを見計らって手を挙げた。先生は何事かと思い誠司を名指しすると、

「すみません、ちょっと気分が悪いので保健室に行ってきます。」

と言い出した。本当は気分が悪いわけではないのだ。授業をそっちのけにしているが、説明は耳に入れながら文章を書いていたのだ。そして、画面をよく見れば今日の授業内容とその次の内容、そのまた次の内容といったように、先生が教えなくても済むような内容が、書き込まれていたのだ。簡単に言ってしまえば、誠司にとって学校の授業はつまらない「物」なのだ。楽しみにしていることといえば、昼食の時ぐらいだ。昼食の時は、昼休みの時間は制限されているものの、その間、何をしてもペナルティポイントにはならないのだ。といっても、おそらくこの学校だけ、世間は時間通りに行わなければならない。その為もあるのかどうかは定かではないが、誠司はこうして授業を毎回抜け出すのである。しかし、もともとペナルティポイントにならないのだから、つまらないなら学校へなど行かなくてもいいだろうと突っ込みたいところ。だが、昼休みが自由という点であることから学校へ通っているのかもしれない。
誠司は文章をコピーしたメモリースティックと、続きを書くために鞄から取り出した薄い小型パソコンを手に、教室を出て行った。どう見ても、保健室へ行くスタイルではない。先生も、あまり関わっていられないため、授業を再開させる。廊下をしばらく歩き、角を曲がるとワープボックスがある。このワープボックスは教室前のものとは違い、屋上へ上がるためのものだ。普通のワープボックスは校内のどこへでも行けるように設定してあるのだが、屋上だけはまた別のワープボックスを使わなければいけないのである。それがこのワープボックスだ。見分けるとするなら、屋上用のワープボックスだけ色が違う。普通のワープボックスは緑色なのだが、屋上用のワープボックスは青色なのだ。そのワープボックスに入って、誠司は屋上へとたどり着く。今は授業中なので、もちろん人気(ひとけ)は全くない。あるとするなら、多種多様な花が咲いている広範囲の花壇があるぐらいだ。ちなみにこの花壇は大昔から継がれているものらしく、他にもいくつかの学校の屋上に、こういった花壇のようなものがあるらしい。育てているのは、遺志を継ぐ者たちだ。いつの年代なのか、一人の小学生が、屋上を花でいっぱいにしようと思い、校長先生にその計画を頼んだ。すると、快く引き受けられ、屋上に多種多様な花が咲く花壇が出来たのが最初だとか。そこから情報が回ったのか、ほかの学校でもやるようになり、今でもこういった花壇が見受けられる。
そんな広範囲の花壇は屋上の両端に設置されていて、中央はパステルカラーのタイルが敷き詰められた範囲がある。その場所も花壇に負けじと広々とした範囲だ。格子状の柵の近くには、形の整った木製の長椅子が2~3席ほど置かれている。昼休みになると、この椅子は大体お弁当を食べに来た女子たちに奪われる。ちょうど花壇の前にも長椅子が置かれているので、花を見物しながら食事をする女子が多いのだ。そして、その中にはごくまれにカップルだっていることもある。自分の作ってきたお弁当を、彼氏にプレゼントするには絶景の場所だとか。ちなみに、この高校は大きく造られているため屋上からの景色はとても眺めがよく、空気もおいしい。
誠司は、柵の近くの長椅子に座るのではなく、それを背もたれにして腰を下ろした。小型のパソコンを開き、スリープ状態を解除する。そして、メモリースティックをパソコンに接続し、データを開いて文章を書き込んでいった。途中、これは違うと思った文章は、一気に消して再び消したところから違う文章を書いたりしていた。しかし、どうにも納得いくものが書けなく、誠司は何度も頭を掻いた。

「だぁああああ!!!やめだやめ!!!」

結局納得するものが書けず、誠司はキリをつけるように小型パソコンをバタンと音を立てて閉じた。そして、そのパソコンを地面に置き、背もたれに使っていた木製の長椅子に乗り、そこにあおむけの状態で寝ころんだ。彼が見る視界は、とても青々しい空……ではなく、多少灰色じみたおかしな空だった。曇っているわけではない。これがこの世界の空の色。何が原因でこんな色になってしまったのか、専門家や学者、それに科学者に聞いてもいまだ不明のまま。いや、もしかしたらこの原因を言ってはならないものなのかもしれない。
この空は、誠司にとってはもう慣れっこだ。幼いころからずっと見てきた空だ。昔も今も全く変わらない、青くない空。初めて見たとき、これは空の色だと確信して喜んだ。おかしな空に、車やバスが飛び交うこの空が楽しくて仕方なかった。だが、古い書物に描かれているものは、とても美しい青々と輝く空だった。これが本当の空だと気が付いたのは、本当につい最近の事だった。その日も授業をさぼり、電子モニターで調べ物をしているとき、一つの写真集が目に入った。その写真集は、多種多様な表情を持つ空ばかりが載っていた。晴天の時は雲一つない美しい青色が、雨や雪のように天気が悪い時には灰色が、青々とした空に、いくつかの白い雲が……など、空に関したものがずらりと並べられていた。空だけじゃない。この空を鏡のように映した泉や、水平線へと沈んでいく太陽によって生まれた夕焼けなど、様々な自然の風景が載っていたのだ。それを見た誠司は、この世界は何らかの理由によりゆがんだ世界になってしまったんだと確信した。その日から誠司は、原因を突き止めようと、授業中にも昼休みにも調べ続けた。しかし、何も情報を得ることはできなかった。どこを調べても原因不明という言葉が必ず出てくる。その言葉に嫌気がさした誠司は、自分の言葉でまとめることにした。間違っていても構わない、ただ自分が推測したものを思いのままに書く。
そうして今までやってきたはいいものの、いくら間違っていても構わないとはいえ、自分も納得するような文章でなければ意味がない。自分が、きっとこうに違いないと思えるまで、誠司はずっと書き込み続けていたのだ。そう、つまり先ほどまで書き込んでいた文章とはこのことだったのだ。文章が英語で書き連ねているあたり、誠司の得意科目は英語だと見受けられる。そのほかの科目も、成績的に優秀な記録を立てているようだ。授業を抜け出すのは、自分で調べて完全に理解しているから。先の授業内容のデータがあるのもそのせいだ。

「はぁ……何でこの世界は……こんなにつまんないんだろう……。」

ふとため息をつきながら、誠司はポツリとつぶやく。そして、つまらないと感じたのはいつの日かと、記憶をたどってみた。彼が生まれた日にちは、政府によって設定された日にちに生まれず、生まれる時間さえもずれていたそうだ。子供が生まれることに関しては、ずれることは当たり前なのだが、その後から誠司は時間を守る事ができずに、いつもペナルティポイントが加算されるばかりであった。それでも気にせず生活してきたが、ついにペナルティポイントはマックスに到達してしまった。本当は、誠司が連行されてしまうはずだった。だが、両親が誠司を守ったのだ。たった一人の息子だから、連れて行くのは自分たちで充分だ、息子を失いたくないと、そう政府に訴えた。そのおかげで誠司は助けられ、代わりに両親が政府に連行された。ペナルティポイントがマックスになっている誠司は、政府から保護の対象とみなされ、これから先プログラム以外の行動をしても注意されることはなくなった。
自由に生活出来るとはいえ、周りの時間は自由に動くことはしないので、生活がとても大変なものになった。それに、周りも重視している誠司は、誰がどこでどの時間に何をするのか、完全に記憶してしまった。だから毎日の人の行動がわかる。クラスメイトに限っても同じだった。いつも同じ時間に話しかけては、時間通りに話を切り上げ席に着く。話の内容も、正直言ってほとんど変わらない。クラスメイトがその内容をしつこく言っているだけなのだが。
そんな同じ光景を見続ける誠司は、いつの間にかこの世界を「つまらない世界」だと断定するようになった。本当に楽しいことがこの世界にはない。学校でのイベントもあるが、それもさほど楽しいものではなかった。楽しそうにしているそぶりをして、本当はつまらなそうにしているのだ。それも、周りに気付かれずに。

「おかしいんだよ……何もかもが同じことの繰り返しなんて……この世界に何が起こったのかさえも、調べたって全く分からない……。」

一人でつぶやく誠司は、ただただおかしなこの空を眺めるしかできない。その空にゆっくりと薄い雲は流れていく。時折、小鳥が囀りながら空を流れるように飛んでいく。そんな小鳥でさえも時間通りだとは思いたくない。

「なぁ、何で俺は皆と違うんだ?皆と同じなら、こんなこと考えずに済むのに……。」

話しかけるその矢先に人はいない。その代り……

「それはボクにもわからないよ……。」

どこからか聞こえる謎の声。その声は誠司のズボンのポケットから聞こえた。もぞもぞと顔をだし、するりと出てきて宙に浮くその正体は小さな「人間」。大きさはわずか10㎝ほど。水色みかかった緑色の髪に、山吹色の瞳。耳には通信機のようなものが取り付けられている。服はクリーム色のワンピースで袖口と裾にレースがついている。腰付近にはベージュ色のリボンが巻きつけられている。どうやら、女性のようだ。
しかし、こんな小さな人間がいるはずもない。彼女は、誠司によって造られた小さなアンドロイド。名前はエメル。髪の色が何となくエメラルドに似ているからだそうだ。両親を失ったとき、とても悲しい思いをした。とても寂しい思いをした。そんな思いはもうしたくないと、必死に勉強をして彼女を造ったのだ。本当は自分と同じぐらいの女性型アンドロイドを作る予定だったのだが、当時の誠司の学力では、このぐらいの大きさを造るので精いっぱいであった。今なら造れそうな気もするが、あえて造り直そうとしないのは、おそらくこのサイズが気に入ったしるしだろう。

「アンドロイドのくせにわかんないのかよ……ったく……。」
「だ、だって……誠司に埋め込まれてるチップは、正常に稼働してるんだよ?」
「ホントかよ。正常に稼働してたら、今頃俺は皆と同じように授業をちゃんと受けてるっての。」
「じゃ、誠司は皆と授業受けたかった?」
「そんなわけないだろ……あんなつまんねー授業、誰が受けるかよ。」

周りの人々とは全く違う。違うからこそ、こうして悩んでいるのだ。別に、同じになりたいとは思わない。同じになったところで、変わるものなんて何もない。ただ、時間通りに予定をこなしていく自分がそこにあるだけだ。そんな風になるなんて、真っ平御免だ。想像しただけでも嫌気がさす。
誠司は空にだけ視線を向けながらそう思った、その矢先だった。自分の視界に何か黒い点が見え始めた。

「ん?なんだあれ?」

その黒い点は、だんだん大きくなっていき、形が人型に見え始めた。しかし、今の時点ではその人型をしたものが、人間かどうか判断できない。じっと目を凝らし、しばらく様子をうかがうと、その人型をしたものはこちらに向かって落下してくることが分かった。そして、それがマネキンか人形か、はたまた本物の人間かも判断ができた。マネキンだとしても、落下の仕方が何となく不自然。人形にしても同じだ。
つまり、あの人型のものは人間だという事だ。人間が何故落ちてきているのか理解ができないが、考えるよりも先に誠司は慌てて飛び上がった。

「あのままじゃヤバい!!助けないと!!!」

こちらに向かってくる人間を受け止めようと、誠司はもう片方のポケットから、メモリースティックを取り出し小さな液晶画面に「救助マット」という表示が出ると、側面のボタンを押して、この屋上の上に描くように全体を囲った。描かれた電子的な線に、液晶画面が映りそこからマットの形をとった。しかし、範囲が大きいせいか完全なマットになるのに時間がかかっているようだ。だが、落下してくる人間はもうすぐ目の前。マットの形成が遅すぎて間に合わない。

「だぁああ!!!マット頼ってる場合じゃねぇえ!!!!」

そう叫び、落下してくる位置を確認しながらそのポジションに移動したのだが、そのポジションは花壇の中。花を踏まないように心がけようにも、花畑のように敷き詰められた花を踏まずに入るわけにもいかなかった。結局何種類か踏みながら花壇の中に入り、ここだといわんばかりに両手を広げた。そしてその数秒後、その人間は誠司の真上に落ちてきた。ポジションがぴったりだったため、落ちてきた人間を受け止めることはできたのだが、その瞬間の衝撃が強く、受け止めたまま花壇に倒れてしまった。ものの見事に花壇の花たちはつぶされ、倒れた時に、大量の花びらが舞った。衝撃が強く、気を失いかけたが花壇の土が柔らかくて気を失わずに済んだ。
落ちてきた人間を助けた誠司を心配そうに見つめるエメルは、恐る恐る誠司に近づいて「大丈夫?」と問いかけた。当の誠司は全然大丈夫そうには見えないが、傷という傷が見えないあたり、おそらく大丈夫であろう。大丈夫でなかったら、骨折でもしているのだろう。

「いたたたた……うぐ……骨折れたか……?」
「うぅん、ただの打撲だよ誠司。」
「あ、そう……それより、問題なのはこっちだ。おい、大丈夫か!?」

起き上がりながら問いかけた人間を改めてみると、どうやら小さな少女だった。いつか見た資料で見た青空と同じような色の短めの髪に、ボンボンの付いた黄色い帽子をかぶり、ノースリーブのシャツ。しかし、腕には肩だけを出した袖をつけていた。ドロワーズぐらいのふくらみがある山吹色の短パンで、ハイソックス。そのハイソックスは、太ももにまで上がっていて、ガーターベルトで止められていた。
そして、少し胸のほうにも目が行く。小さい体の割にはふくよかな大きさだ。見ている誠司は少しドキドキと胸を鳴らしたが、今はそれどころではなかった。なんと、この少女は今半透明なのだ。しかも今にも消えてなくなりそうなぐらい。どうしてこうなっているのかは分からないが、とにかくどうにかできないかと、少女を抱えて急いで花壇から出る。そして。椅子の上に少女を寝かせ、屋上に設置してある水道に向かう。蛇口をひねり両手に水をためた。そして、水を出しっぱなしにしたまま、両手にためた水をこぼさない程度に歩き、寝かせた少女の口に水を流し込んだ。しかし、飲む気配がない。というより、口が開いていないため、流し込んだとしても水は一滴も入らない。

「エメル!なんかこう、ろうとみたいなのないのか!?」
「え……ごめん、今すぐに用意できないから待って!」
「待ってるとこいつ消えちゃうだろ!?どうするんだよ!!」

慌てふためく誠司に、エメルは少し考え、そして頭の上に豆電球がともる。

「口移しだよ誠司!」
「はぁ!?」

それはつまり、キスをしろという事か!?と言わんばかりの声を張り上げた。しかし、迷ってる暇は誠司にはない。もう一度水道に向かい、水をある程度口に含み少女に近寄った。そして、ゆっくりと少女の唇に自分の唇を合わせ、ゆっくりと口の中の水を少女の口の中に流し入れた。今度は飲み込んだ感触があり、半透明だった少女の体は元に戻っていった。
そして、口の中の水を流し終わると同時に、少しうめき声が聞こえた。口付したままだと苦しいので、誠司はあわてて少女から距離をとった。正直、誠司の顔は多少赤い。
うめき声をあげた少女は、瞼を開けるとゆっくりと起き上った。それに気が付いた誠司は、少女の体を支えてうまく起き上れるようにした。少女は支えてくれた誠司を見て「ここは……?」と、まだ目覚めたばかりの子供のようにゆっくりと言葉を発した。先ほど水を口移しであげたせいなのか、声がかすれ少女は咳込んだ。そして、もう一度「ここは、どこなんですか?」と少女は訊ねたあと、もう一言付け加えた。

「あと、ここは西暦何年ですか?」

普通ではありえない訊ね方だが、この言葉で少女がタイムスリップしてきたんだと判断した。何故すぐに判断ができたのかというと、この世界は今や自由にタイムマシンで時間を移動できる時代だ。どこからの時代からやってきてもおかしくはない。しかし、基本的に時間を移動できるのは、調べ物をする時に限ったことと制定されている。それに、移動できたとしても歴史を変えるような行為は行ってはならないし、その時代の者に干渉するのも禁止されていのだ。だとすれば、少女はいったいどうしてここに来れたのだろうか?
それを考えるのはあとにしようと思い、誠司は少女に「西暦5000年」だという事を伝えた。

「5000年ですか……?よかった……ちゃんとたどり着いたみたいですね……。」
「ん?何言ってんだあんた?」
「あ、すみません……私はディル。こんななりですけど、これでも科学者なんですよ?」
「科学者か……ガキにしか見えないけどな。」
「失礼な!!私は列記とした科学者ですぅ!!」

ディルと名乗った少女は、誠司に向かて声を張り上げた。それを見て少し可愛らしかったのか、誠司はくすくすと笑うとディルはさらに怒る。
そして、ふと自分が何故消えずにこの時代にいるのか、何か唇に感触があったようななどと思いだし、誠司に問いただす。正直に自分が助けてあげたと誠司は言ったのだが、その言い方は頬を赤らめながらであった。口移しで水を飲ませたなんて、口が裂けても発言できない。
すると……

「誠司がね!口移しであなたに水飲ませてあげたんだよ!」

と、エメルがからかいながら発言した。その発言に、誠司は顔から火が出るほど真っ赤に染まり、「バカ!!!言うなよ!!!」と怒鳴った。その横で、ディルも顔を真っ赤にしている。

「か、勘違いするなよ!!!あ、あれは助けるためなんだからな!!ほ、ほら、人工呼吸ってやつだよ人工呼吸!!」
「人工呼吸じゃないよ。口付だよ♪」
「エメル、黙らないと壊すからな!?」
「は~い!黙りまーす!」

エメルはそう言って、誠司の頭にちょこんと座った。

「と、とにかく助けてくれてありがとうございました……えっと……。」
「あ?あぁ、自己紹介が遅れたな。俺は誠司、長谷川誠司だ。」

と自己紹介をした後、「で、あんたはどっから来たんだ?」とディルに質問すると、ディルはこの時代から1000年先の西暦6000年から来たと答えた。

「6000年!?すげぇ……まだ人は存在してるんだな……。」
「えぇ、たくさんいますよ。でも……。」

と、ディルはそこで言葉を止めてしまった。何かわけありのようだ。

「でも……なんだ?」
「……私のいた時代はもうないんです。今6000年に戻っても私の知っている時代ではなくなっているはずです。」

誠司は正直わからなかった。1000年も先の未来からやってきたという事はわかった。しかし、何故その時代はなくなっているのだと。時代を変えることは、決してしてはならないという事になっているはずだから、この先の時代がなくなっているという事はあり得ない。……いや、もしかして何者かが過去へさかのぼり、ディルがいた時代を消してしまったに違いない。その証拠に、先ほどディルの体は消えかけた。
しかし、ならば何故、水を与えたらディルは消えずに済んだのだろうか?水を与えただけでは、おそらく今まさにここにディルはいなかったであろう。きっと、この時代の人間だと認識されたのかもしれない。
そう頭の中で思考を巡らせていると、頭に乗っていたエメルが誠司の考えていたことをすべてディルに伝えた。エメルは思考を分析できるように設定してあるようだ。

「エメル……何でいつもそうやって……。」
「設定したのは誠司でしょ~?」
「『言え』とは設定してねー。」

そんなやり取りを見て、ディルは「話を戻していいですか?」と聞いた。二人は申し訳なさそうに向き直り、先ほどの誠司の疑問を解くように話し出した。

「そうですね……どこから話せばいいか……。」
「最初からでいいぜ。そうじゃなきゃ、理解できそうにない。」

「天才で秀才なのにね!」とエメルが茶化す。それに対して誠司は「もうほんとに黙っててくれ!」と渇を入れたあと、自分は天才でも秀才でもないという事を主張した。成績は確かに優秀だが、自分が天才や秀才などと思ったことがないからだ。ただ、授業内容のすべてをわかりきっているだけ。わかりきっているからこそ、授業の内容がとてつもなくつまらないのだ。
ディルは誠司に言われたとおりに、最初から話すことにした。といっても、誠司はどこからが最初なのかわからないため、どこから話すのだろうと少し考えていた。でも、自分が最初からと言ったので、まじめに聞くしかない。自分の疑問も晴れないばかりだ。
頭に乗っかったエメルをポケットに押し込んで黙らせた後、誠司は改めてディルに話をしてくれるように促した。

そう、それは別の世界の西暦6000年の話だ……。



続く。
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