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小説「-Ib-」Episode1

「Ib」というフリーゲームの小説を書いてみることにしました。
詳しくは、Ibの公式サイトへどうぞ。

というわけで、書いてみました。まずは1話目です。
ではどうぞ・・・。


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-Ib- Episode1


昼下がりの灰色の空の下……
イヴとその両親は美術館に向かっておりました……

「忘れ物ないわよね?イヴ。そうだ、ハンカチもってきた?ほら、誕生日にあげたやつ。」

母親に言われ、イヴはとても綺麗なレースの付いたハンカチを取り出して母親に見せた。まだ一度も使っていないのか、汚れた形跡はなく、そのハンカチは新品同様だった。

「ちゃんとポケットに入れておくのよ?なくさないようにね。」

念押しされ、イヴは丁寧にそのハンカチをスカートのポケットに入れた。


数分後……


美術館に到着したイヴと両親。大きな扉をくぐり中に入る。床は大理石を使用しているのか、歩くたびにコツコツと音が鳴り、館内全体に響き渡る。
メインとなる場所に着くと、そこはとても広々とした空間が目に映った。床の色もそうだが、壁の色も少し殺風景で何となくさびしさを覚える。しかし、展示品を目立たせるための装飾なら、申し分ないとイヴは思った。
自分の目の先には、向こう側へ通じる通路があり、受付カウンターの近くには階段があった。その階段付近の壁には、不思議な生き物が描かれたポスターが貼られていた。そのポスターに「G」の文字があった。あとは読めない。

「さぁ、着いたわよ……イヴは美術館、初めてよね?今日観に来たのは『ゲルテナ』っていう人の展覧会で……絵のほかにも、彫刻とか……いろいろと面白い作品があるらしいから、きっとイヴでも楽しめると思うわ。」

母親は、にっこり笑って説明した。どんな絵や彫刻が飾ってあるのだろうか……そんな思考を巡らせ、早く観てみたいという気持ちがだんだん高まってきた。
そして、先ほどのポスターの「G」が何かが分かった。「ゲルテナ」の頭文字だ。

「受付、済ませてしまおうか。」
「そうね。あと、パンフレットももらいましょ。」

そういって、受付カウンターの前に立ち、スタッフと話をする。しかし、イヴは待ち遠しいのか、あたりをキョロキョロと見回し、母親の服を軽く引っ張り先に観に行きたいと要求した。

「もーイヴったら……仕方ないわね。」

母親は待ち遠しさを隠せないイヴを見て、少し呆れた表情を見せた後、少し真剣な顔をしてこう告げる。

「いい?美術館中では静かにしてなきゃだめよ?……ま、アナタなら心配ないと思うけど。他の人の迷惑にならないようにね。」

少し真剣な顔を見せたのは最初だけ。母親はすぐにいつもの優しい表情になっていた。
待機の呪縛から解かれたイヴは、早速館内を歩きはじめた。まずは目の前の通路を歩き、隣の部屋へ。そこの床に大きな絵画が置かれて……いや、床に直接描かれていた。この絵は、先ほど貼られていたポスターの絵だ。あの絵がこんなにも大きな絵だとは思いもよらなかった。その絵の周りに、鎖でつながれた柵があった。進入禁止の合図である。
しかし、床が大理石だというのに、その大理石の名残さえなくどうやってこの床に描いたのだろうか。その疑問を募らせながらじっと見ていると、吸い込まれていきそうな感覚になった。他のお客にも、吸い込まれそうだと口をこぼしている者がいた。
そういえば、この作品のタイトルはなんだろうかと、説明文が書かれているところへと移動した。

『深海の?』
ヒトが立ち入ることは許されない。
その世界を??するため、私は
キャンバスの中に、その世界を?った

9歳のイヴには難しくて読めない漢字があったため、どんな作品なのか正直理解ができなかった。
ひとまずこの作品を後にして、他の作品を見ることにした。
ふと、案内のような貼り紙が視界に入る。

『ようこそ、ゲルテナの世界へ』
本日はご???き、誠にありがとうございます。
当館では現在【ワイズ・ゲルテナ展】を
??しております。
ゲルテナ氏が生前描いた
怪しくも美しい絵画たちを
どうか心行くまで、お楽しみくださいませ。
                 XX,XX,XX

難しくて読めない漢字があるが、何が言いたいのかだけはわかった。おそらく「本日はご来場頂き、誠にありがとうございます。当館では現在【ワイズ・ゲルテナ展】を開催しております。」と書かれているのだろう。しかし、イヴには読めない。だが、新たな疑問がよぎる。ゲルテナ氏はすでにこの世を去っている。あの床に描かれた大きな絵画を、死後の者が描けるはずがない。ならば、いったいあれは誰が描いたものだろうか?そう思うと怖くなってきた。
気を取り直して、他の作品を見ることにした。イヴが読んだ案内の貼り紙の隣には、大きな絵画があった。

『悪意なき??』

これまた読めない漢字だ。その大きな絵画はピアノの練習を厳しく指導しているようなものだった。ピアノを弾いている青い人は子供、指導をしている赤い人は母親だろう。
次の部屋へ行くと、通路にも絵画が飾られていた。

『波打ち際の??』
『??の器』
『??の精神』

読めない漢字が多すぎる。ただ言えることは、どの絵画もどういう趣で描かれたのかが理解できそうにもないという事だ。特に『??の精神』は幾多の色をランダムに塗っただけのようなものにしか見えない。もしかすると、『精神』とついているのだから、気持ちが乱れたようなものを表現したかったのかもしれない。
少し進むと、今度はガラスケースに入れられたものがあった。その中には数多くの小物の作品が飾られてあった。人を魅了するほどの美しいもの、物置にしたくなるようなものなど……キラキラと輝くものばかりであった。
タイトルを見ると『??と星の?めき』と書かれている。やっぱり読めない。
隣の壁に飾られている2つの絵画は『個性なき番人』ともう1つ。他のお客が見ているのでタイトルが分からないが、様々な花が咲いた草原の向こう側に小さな小屋がある。そんな絵画だ。『個性なき番人』はよくわからない。白い人型のようなものが描かれている。
隣の通路へ行くと『せきをする男』という絵画があった。しかし、咳をしている様子はまるでない。これから咳をするのだろうか?だが、絵画なので動いて咳をするはずもない。通路の奥には大きなバラのオブジェがあった。

『精神の???』
一見美しいその姿は
近付きすぎると痛い目に?い
??な肉体にしか咲くことができない

相変わらず読めないが、触ったら痛いんだろうなと感じた。
すると、自分よりも年下であろう少年が、「あの落ちてるのとりたい!」と言い出した。イヴはその少年に、「ダメだと思う……」と告げた。

「えーなんで?落ちてるならいいんじゃないの?ケチー!」

と、少年は言うのでさらにイヴは「怒られちゃうよ」と念押しすると、「つまんなーい!」と騒いだ。他の人に迷惑かかるんじゃないかとそわそわしたが、その少年は静かになり、またそのバラのオブジェを眺めていた。その表情はやはり、落ちている物がほしいというようだった。静かならいいのだが、この少年に注意する親はいないのだろうかとイヴは思った。
元の部屋に戻ってくると、両親が受付を済ませたのか、壁に飾られた大きな絵画の前にいた。

「イブ、トイレはガマンしないで行きなさいね?パンフレットによると、今回はアクセサリーも展示されてるみたいよ。すごく小さな宝石がついたアクセサリーで、すごく綺麗なんですって。あとで一緒に観に行ってみましょ?」

その言葉に頷いたイヴだが、先ほど観たばかりであった。母親の言うとおり、すごく綺麗なものが置かれていたことは確かだった。

「ほらイヴ、見てごらんこの絵。すごいだろー、こんなに大きな絵を観るのは初めてじゃないか?」

確かにこれほど大きな絵画を見たのは初めてだ。というか、美術館に来たのも初めてなのだから、何もかもが初めてなのだが……。

「この絵の意味がわかるかい?」
「わからない。」
「うん、お父さんもわからない。でも、なんとなくピアノのレッスンで叱られてる子供の絵……に見えるかな。」

それはイヴも思ったことだ。いや、誰もが思う事だろう。誰が見ても、そういうように見える。

「そこの魚の絵は観たかい?海の底には、本当にああいう魚がいるらしいよ。」

そういわれると、やっぱり怖くなった。どうやって床に描いたのかというのもあるのだが、現実にあれぐらいの魚がいると思うと、深海の生き物はどれもが怖いものだと想像してしまう。

「怖いって?たしかに、見た目は不気味だね。でも、ちょっとワクワクしないか?」

それはただの冒険心だ。9歳のイヴにはワクワクどころか、怖くなるイメージが高くなるばかりだ。

「まぁ、それはいいとして……今、お客さん少ないから、じっくり作品を観られるチャンスだぞ。混んでくると、なかなかゆっくり観られないからね。そうそう、2階に行ってみたかい?2階には絵以外の作品も多いみたいだよ。」

そういわれ、イヴは先ほどの受付カウンターがあった部屋に行き、階段を上った。父親の言うとおり、2階には絵画だけでなく造形が多く飾られていた。タイトルは相変わらず読めないものが多かったが……。
ふと、展示品よりも変わった髪の色をした人に目が行った。菫色の髪で、頭頂部の一部の髪は、濃い菫色になっていた。服装はボロついたコートを着ていた。顔つきは、女性のように見えるが、男性にも見える。イヴから見て右の目は髪でおおわれていた。不思議な人だと思いつつも、イヴは展示品を見ることにした。
首のない3つのマネキン。色は、赤、青、黄色。信号の色をチョイスしたようなものだ。タイトルは『無個性』。確かに、個性が無い。タイトどおりである。しかしやはり趣旨はわからない。それに、何故首がないのだろうか。
その疑問を読み取ったのか、近くの男性が答える。

「僕が思うに……ゲルテナの言う“個性”っていうのは、表情だと思うんだよね。だから、この像たちには、首がないんじゃないかな?そう思わないかい?」

疑問に答えてくれたんじゃないのか。イヴは適当に「そうだとおもう」と答えた。
すると、その男性は自分の考えに同意された事が嬉しかったのか、満面な笑みを浮かべて歓喜の言葉を並べていた。
そして最後に……

「しかしこの像って、結構スタイル良いよな……。」

と、呟いていた。
奥へ進むと、ソファーが置いてあった。これも展示品である。タイトルは『指定席』だ。誰の指定席なのかはわからない。この作品を見ている人が「変なソファー……」と言いつつも、座ってはならないだろうけど、座りたいという気持ちを寄せていた。
確かに、このソファーはどこか変だ。普通の白いソファーに、赤と白のコードのようなものがいくつか絡まってくっついている。何のために、このコードのようなものを取り付けたのか、イヴには全くわからなかった。
当然のように、この先に進んだ廊下のの壁に取り付けられた絵画のタイトルもわからない。『テーブルに置かれた』までは読めるのだが、その先の漢字がわからない。とにかく赤い何かが置かれている絵だということはわかった。
一旦道をもどり、隣の部屋に行ってみる。そこにもやはり作品は沢山あった。どうせ読めない漢字があるのでタイトルを気にすることはやめた。ダイヤのような絵画、赤い服を着た美女の絵画、果物の絵画、老夫婦が見ていてそのせいで見えない絵画。
見ていると、大きなショッキングピンクの玉に刃物が刺されいる物の近くで、女性と男性の会話が聞こえてきた。

「なんか作品数少なくない?もっとなかったけ?」
「ここに入りきらなかったり、経費とかなんやらで全部は無理だって話だよ。」
「ふーん………。」

経費とかよくわからなかったが、とにかく全ての作品はこの美術館には収まりきらなかったらしい。芸術家だから、作品がたくさんあるのも当然のことだし、収まりきらなかったのも話がつく。
しかし、男性の話いわくゲルテナはマイナーな芸術家だったようだ。マイナーな芸術家だが、こうして数多くの人がゲルテナを知り、展覧会に出向いている。といっても、イヴもゲルテナという人物は全く知らなく、両親が好意で連れてきてくれただけなので、自分も「ゲルテナを知らなかった」部類に入る。しかし、おかしな作品があるにしろ、自分も少しずつゲルテナの事を知ろうと思ったイヴだった。
その作品の奥には『口直しの樹』と言う作品があった。それを見て「おいしそう」とつぶやいている女性がいたが、イヴは別にこの作品がおいしそうだとは思わなかった。ただ、七色に輝くガラスのカーテンのような、そんなように思えた。その奥にある作品は漢字は読めなかったものの、青い大きな人型の銅像だという事が分かった。何を意味しているのかやっぱり解らない。
そうして壁の絵画にも目をやる。『悟り』という作品と、猫の絵画。猫の絵画の前には、親子がいた。自分よりも小さな女の子が、猫の絵画を見てはしゃいでいる。しかし、美術館では静かにしないと、声が館内に響き渡るため母親がそれを静かに制していた。
その先の奥に行ってみると、一番最初に観た絵画よりもとても横に長く大きな絵画が壁に取り付けられていた。右下に先ほどの朱い服を着た女性、左上にバラ右上になんだかよくわからない顔のようなもの、左下に水のようなもの。そして中心に描かれているのは……人型に見えるような何か。しかし、この絵画自体が全体的に暗い。この絵画の世界観はいったいどういうものだろうか。タイトルを見ても、漢字が読めないので理解しがたい。
すると、突然天井のライトが点滅した。そして、美術館に流れていた美しい曲もフェードアウトがかかるように消えていき、何も鳴らなくなった。少し怖くなり、イヴは元の道をゆく。
するとどうだろう……先ほどいた客が誰一人としていなくなっているのだ。ますます怖くなったイヴは、1階に下りて両親を探すことにした。しかし、1階に下りるとライトがまた点滅し、今度は薄暗くなってしまった。受付に立っている人もいないし、窓に立っている人もいな……

「!!」

鍵はかかっていないのに開かなくなっている窓に近付くと、突然赤い液体がその窓を覆うように流れ込んだ。人間の血のように見えるが、血としては不自然な色のため血でないことはわかるが、この暗さと、そして誰かがどこかを歩いているような足音が響く中にいるのでは、血のようにしか見えない。
とにかく、両親がいた場所に足を運んだ……だが、誰もいない……。もちろん客の姿も見えない。どこかですれ違ったんだと思い、イヴは恐怖心を抱きつつ館内を探し出した。だが、見つからない。
大きなバラのオブジェがある場所につくと、突然咳をしたような声が聞こえた。いや、この『せきをする男』の絵画が動いて咳をしたかのように思えた。しかし、動く様子は全くない。
両親がいた部屋に戻るがやはりいない。もう一度2階へ行くことにした。足音のような音は依然鳴り続けている。2階に上がると、窓の外で誰かが通った気がした。だが、この場所は2階で外で歩ける足場などない。人が通るなんてありえないことだ。窓の外を見たが、やはり足場など見当たらなかった。気のせいかと思い、窓を離れると、強く窓を3回たたく音が聞こえた。もう一度見てみると、手の跡がくっきり残っていた。これは本当に怖くなり、逃げるようにしながらも両親を呼びながら探し回る。しかし、イヴの恐怖心をこれでもかと上げてくる。なんと、絵画から果物が落ちたのだ。こんな非現実な事が、今目の前で起こっているのだ。咳の声、窓をたたくなら、幽霊かなんかだと言えよう。しかし、絵のものが額を飛び出すのだ。全く持ってありえない。
猫の絵画の横を通ると、猫の声が聞こえた。もうだめだ。怖くて心臓が飛び出しそうだ。
そうして先ほどの大きな横長の絵画に戻る。すると、そこにはなかったはずの青い液体が額縁の裏から流れているではないか。それを確認すると……



                           よ                ヴ
          い

                                       イ
                      で



と、廊下に赤い文字が1文字ずつ出てきたのだ。
もう何が何だかわからないイヴだったが、ふと青い液体だったものが、文章に変わっていたのに気が付いた。

“したに おいでよ イヴ
 ひみつのばしょ おしえてあげる”

秘密の場所とはなんなのだろうか?
しかし、イヴは一刻も早く両親とこの場所から帰りたく、一目散に出入口に走った。
階段を駆け下り、受付を横切り、出入口に到達したのだが鍵がかかって扉が開かない。イヴはたった一人で完全に閉じ込められと思い、その場に座り込んだ。
どうしようもなくなり、先ほどの壁の文章を思い出し、勇気を出してあの床に描かれた部屋へと足を運んだ。見ると、鎖でつながれた柵が外されて、青い足跡が付いていた。この絵の中に入れとでも言いたいのだろうか。しかし、絵の中に入るなんてこれまた非現実的な事だ。だが、よく見ると本物の海のように絵画が揺らめいていた。それはまるで、揺蕩う湖面のよう。
とにかく、入る場所はここしかない、きっと出口は見つかるはずだと思い、イヴは勢いよくその絵の中に飛び込んだ。



続く
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